トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2016)あらすじと作品紹介(ネタバレなし)




鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』はどんな映画?

ダルトン・トランボ。ハリウッド史上に残る名脚本家でありながら、1940年代のある時期から1960年までの長きにわたって、その名前が表向きにクレジットされることはありませんでした。1940年代のアメリカを吹き荒れた「赤狩り」(反共産主義運動)の中、トランボはハリウッドを追放され、偽名で活動を続けたのです。彼の苦闘の日々・名誉回復までの道のりを描いた、実話をもとにした映画です。

第二次大戦終結以前より開始していた冷戦は、大戦後には徐々に全世界を巻き込む深刻な対立となっていきます。アメリカを中心とする資本主義陣営と、ソ連を中心とする共産主義陣営の対立構造のもと、アメリカでは共産主義者排斥の動きが活発になりました。華やかなハリウッドの世界もその例外ではなく、共産主義を是とする多くの映画人が弾圧され、追放されることとなってしまいました。当時の時代背景とその移り変わり、そして諦めずに創作を続ける天才脚本家の姿を描いています。

監督はジェイ・ローチ。『オースティン・パワーズ』(1997)シリーズや『ミート・ザ・ペアレンツ』(2000)シリーズなどコメディの印象が強い監督ですが、本作ではがらっと毛色を変えています。主演ダルトン・トランボ役には大ヒットドラマ『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストン。妻のクレオに『運命の女』(2002)『トスカーナの休日』(2003)などのダイアン・レイン。トランボを批判するコラムニストのヘッダ・ホッパーに『クィーン』(2006)などのヘレン・ミレン。カーク・ダグラス役にディーン・オゴーマンなど。


『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』あらすじ

1940年代、脚本家ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)はすでにハリウッドで一定の評価を得て、順風満帆のキャリアを積んでいた。しかし冷戦が深刻化する中、アメリカでは共産主義者排斥の動きが強まっていた。ハリウッドにはジョン・ウェイン(デイヴィッド・ジェイムズ・エリオット)らを中心に「アメリカの理想を守るための映画同盟」が作られ、共産主義者(あるいはそうみなされた人々)は吊るし上げにあう。トランボも「下院非米活動委員会」に召喚される。

トランボは「お前は共産主義者か」と問われると、これに対して合衆国憲法修正1条(信教・言論・出版・集会の自由)などを持ち出し、敢然と対抗する。しかしこの結果、彼は議会侮辱罪で逮捕され、投獄されてしまう。やがて出所するものの、ハリウッドからは事実上追放された状態。名義借りをしたり、偽名を使ったり、B級映画にでもなんでも書いて、彼は家族を守っていく。

トランボの飛び抜けた実力を知る者はなおもハリウッドに残っていた。本名を隠して仲間に託したある脚本は、見事な作品となってスクリーンに躍動し、世界中に知られる名作となった。それが『ローマの休日』である。さらには『黒い牡牛』。トランボは事実上、既に2度のオスカーに輝いていた。時代の空気は少しずつ移り変わる。そんな中、トランボを訪ねてきたのはスター俳優カーク・ダグラス。彼が製作総指揮をとり、スタンリー・キューブリック監督による映画を撮るというのだ。


鑑賞前のポイント

最低限知っておきたいのは、冷戦というものが大まかに何だったのかということです。資本主義と共産主義の対立がどれほど深刻だったかを理解していなければ、1940年代からのアメリカにおけるヒステリックなまでの共産主義排斥の理由がいまいち読み取れません。ただし、べつに『資本論』を読んでおく必要はありません。共産主義とか資本主義の中身がどう、という映画ではないからです。

また、話の性格上、当然数々の名画・俳優たちが登場します。しかし無理にそれらを知っておく必要もまたありません。ジョン・ウェイン、ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、カーク・ダグラスらの出演作の数々や、オットー・プレミンジャー監督作品、さらにトランボの代表作『ローマの休日』(1953)『スパルタカス』(1960)『パピヨン』(1973)などを観ていなければ理解できない、という部分はありません。

とはいえ、この映画を観れば、未鑑賞の方はトランボの作品群を観たくなること請け合いです。後からであっても、ぜひ観てみましょう。特に上に挙げた3作、加えて『ジョニーは戦場へ行った』(1971)あたりは必須でしょう。

また、(たとえば)あなたが中国共産党だとか日本の共産党を嫌いだとしても、それを理由にこの映画を避けてしまうのはとてももったいないことです。イデオロギーによって映画をふるいにかけるのはあまりに虚しいことですし、そもそもこの映画は共産主義を賛美したり、逆に非難したりといった映画ではありません。そんな余計なことを考えずに、ぜひ。

(それからもうひとつ。エンドロールに入ってしまっても席を立ってしまわず、あるいは停止ボタンを押してしまわず、少し待ってみてください。)


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