悪人(2010)鑑賞前 あらすじと作品紹介(ネタバレなし)





鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

「悪人」はどんな映画?

保険外交員の若い女性が殺されるという事件が起こった。当初犯人と目された男は犯人ではなく、別の男が浮上する。女と逃げているらしい真犯人の背後にはどのような事情があったのか、という物語。

事件が発生し、犯人が追われ、という意味ではサスペンスですが、どちらかといえばヒューマンドラマの色彩が濃い作品です。「何が起こったのか」ということはさほど大きな謎として描かれず、割とあっさりと明かされます。むしろ「何故起こったのか」ということが重大な謎です。それが、この作品の核である「彼は本当に悪人なのか」「誰が悪人なのか」「悪人とはいったい何を指すのか」という根本的な問いにつながっていきます。

息の詰まるような作品です。殺人事件を扱っているとはいえ、トリックを解き明かすようなものではなく、ハラハラさせるような駆け引きがあるわけでもありません。ひとつの殺人事件と、それを取り巻く人々の心の動きを丹念に追い、そのひとつひとつが心にのしかかっていくような映画です。それだけに、悪とは(そして善とは)という問いかけが重く突き刺さります。深く見ていけば、ささやかながらきらめく光も見えます。出演者たちの熱演は、それに大きな説得力を与えています。

第34回日本アカデミー賞では、最優秀主演男優賞(妻夫木聡)・最優秀主演女優賞(深津絵里)・最優秀助演男優賞(柄本明)・最優秀助演女優賞(樹木希林)を総なめ。深津はモントリオール世界映画祭でも主演女優賞を獲得。原作小説は吉田修一作。監督は「フラガール(2006)」「許されざる者(2013)」の李相日。李による吉田作品の映画化は、この後「怒り(2016)」でも再び実現しました。


「悪人」あらすじ(ネタバレなし)

九州北部の山道で、保険外交員の女性・石橋佳乃(満島ひかり)が他殺死体で発見される。当初、彼女を車に乗せていた大学生の増尾圭吾(岡田将生)が疑われるが、彼はシロだった。警察は早々に、真犯人が解体作業員の清水祐一(妻夫木聡)である事実にたどり着く。

しかし祐一は、外見こそ金髪で不真面目な若者のようにも見えるが、自らの祖父母ばかりか近隣の老人たちを病院に送って行くなどよく面倒を見ており、残虐な殺人事件とは結びつきにくい。いったい何故彼は事件を起こしたのか? そして、馬込光代(深津絵里)という女性が彼と行動をともにしている理由とは?


鑑賞前のポイント

必要な予備知識はほとんどありません。強いて言えば、常識レベルの九州北部の地理でしょうか。いや、知らなくても全く問題はありませんが。あとは、重たい作品を観るのだという心の準備。


しっかりとした原作小説があり(吉田修一『悪人』朝日文庫)、「ネタバレによって面白みが損なわれる」といった要素はない物語なので、理解やテーマについての考えを深めるためには、小説も併せて読むことは強くおすすめします。先に読むか後で読むかはお好みで。 

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