淵に立つ(2016)あらすじと作品紹介(ネタバレなし)





鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

『淵に立つ』はどんな映画?

小さな金属加工の工場を営む一家。両親とまだ幼い小学生の娘の3人家族です。ある日工場に一人の男がやってきます。父の古い友人だという彼は住み込みで働き始め、家族の中に少しずつ入り込んでいきます。礼儀正しく、母や娘とも徐々に打ち解けていく男。しかしある日起こった出来事により、家族は取り返しのつかない傷を負うことになるのです。

極めて丁寧に描かれた家族の物語。罪と赦しについて容赦のない問いを突きつけてくる、よく研ぎ澄まされたシンプルなナイフのような映画です。人の心の淵に立ってその暗渠を見つめるとき、真っ暗な中に次第に浮かび上がってくるものは何か。数少ない登場人物たちには、俳優たちの名演によって命が吹き込まれ、その命は光と影を確かに湛えています。2016年の邦画を代表する傑作のひとつです。

監督は『歓待』(2011)『ほとりの朔子』(2013)などの深田晃司。主演に、これら2作にも出演し深田監督作品の常連となっている古舘寛治、『かぐらめ』(2015)などの筒井真理子、そして『地球で最後のふたり』(2003)『岸辺の旅』(2015)などの浅野忠信。他に太賀、三浦貴大ら。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞しました。


『淵に立つ』あらすじ(ネタバレなし)

鈴岡利雄(古舘寛治)は、妻の章江(筒井真理子)とともに小さな金属加工の工場を営んでいる。まだ小学生の娘・蛍(篠川桃音)との3人家族。別段裕福ではないが貧窮するでもなく、不自由のない生活だ。朴訥な利雄と章江の間のコミュニケーションは豊かとはいえない。章江とその影響を受けた蛍がプロテスタントのクリスチャンであるのに対し、利雄はそうではないという点にもズレがある。しかし、今のところ表面化した大きなトラブルがあるというわけでもない。

ある日、一家のもとに八坂草太郎(浅野忠信)という男が現れる。つい先日まで服役しており、刑期を終えたばかりのようだ。八坂とは古い知り合いだという利雄は、すぐに彼を住み込みで雇うことにする。何の相談もなくそれを決めた利雄に不満を抱き、また八坂に不信感を抱いていた章江だったが、常に控えめで礼儀正しい八坂に次第に好感を持つようになる。娘の蛍も、八坂によく懐いている。

やがて八坂は、自らの過去について章江に語るようになる。それは衝撃的なものだったが、むしろクリスチャンとしての信念も手伝って、章江はいっそう八坂に対して興味を抱き、また距離を縮めることになる。しかしある日、家族に消えることのない傷跡を残す大きな事件が起こる。そして八坂は姿を消すのだった。


鑑賞前のポイント

必須の予備知識はありません。ただ、キリスト教の教えについての知識があれば、この映画をより深く読み解くことができるかもしれません。私はキリスト教を信仰しておらず一般的なレベルの知識しか持ち合わせていないため、鑑賞後にいろいろと調べ物をすることになりました。もちろん、信仰にかかわらずあらゆる人に共通する問題を扱っていますので、さほど気にするべきことではありませんが。


人間存在の根本に問いを投げかける、シリアスな物語です。2時間の鑑賞時間のあとに、しばし考え込む時間を用意しておくことをおすすめします。

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