疑惑のチャンピオン(2015)あらすじと作品紹介(ネタバレなし)



鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

『疑惑のチャンピオン』はどんな映画?

ツール・ド・フランスといえば、規模・その影響力において世界最高の自転車ロードレース。ほとんど日本人選手の活躍がないこともあり、日本ではさほど注目されませんが、欧米では実際のところ絶大な人気を誇り、その覇者が得る名誉は途方もないものです。かつてその長い歴史の中に燦然と輝く7連覇という記録を残し、後にそれが歴史的な汚点へと変わることになった選手がいます。彼の名はランス・アームストロング。

弱冠25歳にして癌を患い、脳まで侵されながらそれを克服した不屈のライダー。無敵のチャンピオンとしてツール・ド・フランスを7連覇しながら、後に禁止薬物の使用が発覚して全てを剥奪された「堕ちたヒーロー」ランス・アームストロングを描いた、実話を基にした映画です。彼はいかにして堕ちていったのか、あるいは初めから墜ちていたのか? 禁止薬物を使ってまでなりふり構わず彼が求めたものは何だったのか? 事実を丹念に・淡々と辿ることでそれを解き明かしていくような映画です。

ランス・アームストロングの「7連覇」は1999年から2005年にかけて。それが剥奪されたのは2012年、彼がテレビ番組において事実を認めたのは2013年。つまり「つい先日」起こった大スキャンダルを描いているという点も注目に値します。

監督は『クィーン』(2006)『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(2016)のスティーヴン・フリアーズ。主演のランス役に『3時10分、決断のとき』(2007)『ローン・サバイバー』(2013)などのベン・フォスター。他にクリス・オダウド、ギヨーム・カネ、ジェシー・プレモンスら。また、わずかな出番ながら存在感ある役どころで『真夜中のカーボーイ』(1969)『クレイマー、クレイマー』(1979)『レインマン』(1988)の名優、ダスティン・ホフマンが出演しています。


『疑惑のチャンピオン』あらすじ

90年代前半。アメリカのテキサス出身、新鋭の自転車レーサーであるランス・アームストロング(ベン・フォスター)は徐々に注目を集めつつあった。しかし、いよいよこれからのし上がっていこうというところで、彼は体調に異変を覚える。検査結果はなんと精巣がん。しかも脳にまで転移している。競技生命どころか、生命そのものも脅かされる危険な状態だった。

しかし手術や過酷な治療を経て、彼は奇跡的にカムバック。その後の彼は以前とは別人のような走りを見せる。苦手だったはずの坂道ではどんどん他の選手を追い抜き、独走状態に。ついには誰もが夢見るツール・ド・フランスの覇者となり、しかも7大会にわたるディフェンディング・チャンピオンの栄誉に輝く。がんを克服した奇跡の物語、そしてその圧倒的な強さ。誰もが彼を英雄とみなすようになる。しかしその裏には、禁止薬物を用いたドーピングがあった。

競争相手の選手たちにもジャーナリストにも、ランスの活躍に疑問を抱く者はいた。雑誌記者のデイヴィッド・ウォルシュ(クリス・オダウド)はその一人だ。彼は告発を試みるが、ランスはそれをかわす。ランスは巧みにドーピング検査をかいくぐっており、「一度も陽性が出ていない」という事実は文句なしの武器であった。依然ランスは無敵のチャンピオンであり、がん患者のためのチャリティーにも力を注ぐ慈善の人であった。しかし、彼の名声が地に堕ちる時は近づいていた。


鑑賞前のポイント

予備知識無しに理解することは十分できますが、「ツール・ド・フランス」がいかに大きなイベントなのかということを知っておくと、このスキャンダルの重大さがより理解しやすくなるでしょう。日本では一部の熱心なファンが注目するのみといった認知度ですが、世界ではのべ数十億人がテレビで観戦するといわれています。サッカーW杯にも引けを取らないといって過言ではないかもしれません。そのチャンピオンとは、本当に本当に偉大な存在なのです。


また、この映画の原作となっているのは、劇中にもランスを追及する存在として登場するジャーナリストのデイヴィッド・ウォルシュによる著作です。”Seven Deadly Sins: My Pursuit of Lance Armstrong” というタイトルを和訳すると、『七つの大罪: ランス・アームストロングを追及する』といったところ。「七つの大罪」とはもちろん、キリスト教における「七つの大罪」とランスの7連覇を掛けたものです。残念ながら和訳は出ていないようですが。 

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